タイラー・コーエン氏の「大格差~機械の知能は仕事と所得をどう変えるか~」機械と一緒に働ける人が豊かになる!?

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「大格差~機械の知能は仕事と所得をどう変えるか~」

「世界に最も影響を与える経済学者の1人」に選ばれた

タイラー・コーエン氏が、近未来の経済社会を

生き延びていくために必要な情報を提供されています。

「マシンと一緒に働ける人が豊かになる!?」

「平均は終わった!?」

ますますテクノロジーが進化発展していく中で、

従来の経済認識が変革されていく必然性を

強調されています。

今回は、この本をご紹介します。

「大格差~機械の知能は仕事と所得をどう変えるか~」    (タイラー・コーエン著、池村千秋訳、若田部昌澄解説、NTT出版、2014年初版第4刷)

タイラー・コーエン氏(以下、著者)は、米国のジョージ・メイソン大学

経済学教授であり、「世界に最も影響を与える経済学者の1人」として

英国の「エコノミスト誌」(2011年)に選ばれた方です。

前著「大停滞」は、米国社会に大反響を巻き起こしました。

著者は、「経済ブログ」を通じて本書でも紹介されている

「オンライン教育(OCW)」にも積極的な若手経済学者であります。

「テクノロジーが人間の雇用を奪う??」

これまでも、当ブログは様々な書籍の紹介を通じて、

考察してきました。

今回ご紹介させて頂く著者は、

その解答は「機械との付き合い方次第」だとされています。

なぜ、米国の経済事情は一向に回復する気配すら感じられないのか?

著者は、前著「大停滞」から本書「大格差」まで一貫して世に問い続けてきました。

その「問い」は、日本でもそのまま通用するテーマであります。

2008年9月のいわゆる「リーマン・ショック」から「大不況」が

本格的に始まったとする「短期的」な見方もある一方で、

すでに20世紀末から21世紀初頭にかけて起きた「情報通信革命」より

始まっていたとする「長期的」な見方まであるようです。

著者は、「短期的」な金融ショックよりも「長期的」なITショックに

比重を置いた「悲観的」な経済批評をされています。

果たして、21世紀に生じた「大停滞・大格差型不況」は、これまでの

「不況対策」だけで解決できるものなのか?

これに対しては、従来の「経済学理論」に依存するだけでは「解決策」を

提示することも著しく困難で退潮しているのではないかとの見方も示されています。

著者は、本書で自らの政治的立場を「リバタリアン保守主義の混合型」

だとされていますが、見た目以上には「リベラルと保守」は、経済生活面に

おいては、そんなに大きくは違わないとの意見をお持ちのようです。

所得格差を調査していても、一概に「低所得層」が「リベラル支持」でもなく、

むしろ「保守的リバタリアン」が増加しているようだとの分析もされています。

そのような思想的立場のようですが、柔軟な見方もされています。

これからの経済社会では、機械とうまく働いていける人間こそが豊かになる。

その一方で、機械との付き合い方に失敗すれば貧しくなると・・・

そのようにして、やがて社会は大きく二分されていくだろうとの見通しを

強調されています。

こうした経済変化の中で、私たちはどのような覚悟で生き延びていけばよいのか?

そのための知恵と厳しい現状分析を提示されています。

「米国が風邪をひけば、日本も風邪をひく!!」という風説が、昔あったそうですが、

日米関係が親密になればなるほど、私たちにとっても

決して「対岸の火事」ではありません。

ということで、著者の厳しい語りに耳を傾けながら、これからの「経済生活」を

どのような姿勢で営んでいくべきか、皆さんとともに学んでいこうと、

この本を取り上げさせて頂きました。

平均(中産階層)の終焉??

21世紀になり、社会は「大停滞」だけが続いてきたとの見方を

まず提示されています。

そのあたりの詳細は、著者の前著「大停滞」でも分析されているようです。

では、なぜ「大停滞」が続くのでしょうか?

現在、日米両国とも厳しい「大不況」から克服しようと取り組んでいます。

2008年9月に起きたリーマン・ショックのような「金融ショック」が、

この「大不況」の原因であるとの見方が主流のようですが、著者は

そのような主流説に異議を申し立てます。

「金融ショック説は、数ある原因のうちの一つにしかすぎない!!」

「最も深刻な原因は、急成長著しい技術革新に人間の対応が

追いついていないから!!」だとの見方を強調されています。

技術革新により生産性が高まり、今まで人間がこなしていた

作業領域が減少していく一方であること。

これが、「実需」を減少させるとともに「実質賃金」も押し下げている。

また、「グローバル化(自由貿易の激化)」の影響にも

主たる原因を負わせるべきではないとも語っておられます。

つまり、実際の「実質賃金の低下の原因」は、国際貿易よりも情報通信技術の方が、

はるかに大きいのだと・・・

そして、縮小していく「国内雇用」を維持していくためには、

移民も積極的に受け入れていくべきだとの考えもお持ちです。

このあたりが、冒頭で「柔軟な見方」と語らせて頂いた点でもあります。

どうやら、グローバル化による「産業空洞化と失業の輸出」は回避し、

技術革新によって失われていく「国内雇用」を移民の力も借りながら、

立て直し維持していこうとのお考えのようです。

幸いなことに、すでにずっと前から「自由貿易競争」にも慣れてきているし、

ノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンスとサンディル・ラッシュワヨの

最近の研究によると、近年増加した雇用のほとんどは「非貿易部門」の業種であり、

「非貿易部門」の雇用が安泰であることは、多くの人間にとっても「朗報」だと・・・

こうした見方は、「移民国家」アメリカだからこそ成り立つわけで、

この議論をそのまま日本にも当てはめるべきかどうかは、

賛否両論大きく分かれるところでしょう。

いずれにせよ、「移民問題」は目下世界中で大混乱を巻き起こしているだけに、

慎重に考えるべき「論点」であることには相違ないようです。

さて、著者は「チェスプレイヤー」でもあるそうですが、

昨今の「人間と機械との対戦」には、殊の外、興味関心がおありのようです。

その考察から見えてきたことは、

「人間の頭脳は、優れた人工知能を持った機械には及ばない!!」との

冷静な判断でした。

人間の認知(特に、直感的判断)能力や意志決定能力には

限界があることも判明してきました。

そのような厳しい現実の前で、

今後「人間はどのように機械とうまく協働作業していけばよいのか?」

という視点で、著者は一定の結論を下されました。

「機械と一緒にうまく働いていく能力がなければ、ますます厳しい状況へと

追い込まれる!!」

それは、「平均(中産階層)の終焉!?」になると・・・

機械とうまく協働していくための教育

そこで、このような厳しい現実に対して、

どのように立ち向かっていけばよいのでしょうか?

富裕層は、ますます「高学歴化」していく一方で、

低所得層は質の高い教育を享受することもなく、

落ちこぼれていく一方なのでしょうか?

必ずしも、そのような「悲観的な見方」をする必要はない。

テクノロジーの恩恵で、安価で質の高い「オンライン教育(OCW)」

を享受することが可能になり、労働異動も真面目で意欲に燃えた

野心的な人間にとっては、柔軟で容易になるとも

語られます。

ただし、現状のエリート教育界を始めとする社会の富裕層の

物の見方次第ですが・・・

ところが仮に、このような理想教育が実現されたとしても、

万人が救われる訳でもないことも強調されています。

あくまで、「真面目に意欲的」でないと、せっかくの教育機会も

活かせないであろうと。

それは、平等な「超実力主義」の時代の幕開けでもあります。

機械が人間を教育するようになると、人間がすべき役割も大きく

変わってきます。

「機械に出来て人間に出来ないこと」と「人間に出来て機械に出来ないこと」の

「棲み分け」も、やがてはっきりとしていくことでしょう。

そのような時代が到来したなら、私たちの既存の常識も変えていかなければ

「自然淘汰」されてしまうでしょう。

そこで、機械との共生という適応がうまく果たせなかった場合は、

どうなっていくのでしょうか?

著者も、本書で厳しい未来像を提示されています。

つまるところ、「人間が機械を制御しながら、うまく協働出来たなら

豊かになるだろうが、失敗すれば・・・」という、

厳しい「超格差社会」の現実が待ち受けているという結論です。

この本では、人々の所得に応じて、「生活習慣」が幾層にも分断されていく

「見取り図」も示されています。

このあたりの解説を読むと、現代日本での若者たちの

新しい「生活適応術」にも参考になるようです。

やはり、アメリカでも同じことが進行しているのかと。

著者の予想では、少子高齢化とも相まって若者層の社会への影響は

驚くほど小さく、「大停滞・大格差」の中で「保守化」していくだろうとの

見方を提示されています。

つまり、今後数十年大きく「世代交代」がない限り、長期的に変化は

あり得ないだろうということです。

機械化やグローバル化など複数の経済悪化要因が複雑に絡まれば、

実質賃金の長期的低下と財政難をもたらし、社会福祉などにも「大格差」が生じます。

まさに、「大貧民社会」の到来です。

著者は、最後にむやみな「階級闘争」は、ほとんど意味がないと警鐘しておられます。

早稲田大学の若田部昌澄先生の本書での解説によると、昨年「21世紀の資本」で

話題になったフランスのトマ・ピケティ氏のような「処方箋」には批判的のようです。

富裕層に対する課税を強化していったところで、

最終的にますます不利な経済状況へと導かれていくだけだと・・・

また、「ミニ起業家」の推奨や、「フリーエージェント」、「ノマド」的仕事には

懐疑的でもあるようです。

確かに、現状を見渡せば「いつの時代も成功者は一握り」であります。

そういう意味では、「自己の現状を厳しく見つめ、夢や希望などという世界に

安住せずに、真面目に堅実に保守的に生き抜く姿勢」が、無難なのかもしれませんね。

著者の言葉でまとめますと、賢い機械と協働し情報の組み合わせに長じた

「フリースタイル・モデル」な生き方にうまく適合させることが出来れば、

「豊かな道」を歩めるチャンスが拡がるということのようです。

今回も「テクノロジーと人間の雇用の未来」について、考察してきましたが、

やはり、これまでもご紹介させて頂いた論者に共通する結論に導かれました。

『人間を機械に合わせるのではなく、機械を人間に合わせるように

プログラミングすることが、結局は「身のため」!?』

「悲観派」はなおのこと、「楽観派」でさえ、そのように考える方も多いようです。

管理人は、この先、テクノロジーがどこまで進展していくのか

まったく予測できませんが、著者の指摘されたように、とにかくバカ正直になって、

真面目に堅実に学び続けながら、仕事の工夫を積み重ね、生き残る術を

絶えず模索し試行錯誤していくしかないのだと思います。

皆さんも、本書を読み進められるうちに「反発心」も湧いてくるかもしれませんが、

ここは冷静になって、「何よりも安易な幻想に騙されないための知恵」

考えてみてはいかがでしょうか?

その意味では、著者の「保守的リバタリアン」という「堅実な生き方」は

尊敬に値すると思います。

皆さんも、もちろん「生き方は自由」ですが、各自の「機械と一緒にうまく働く術」を

慎重に模索されることをお薦めします。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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