長谷川英祐先生の「科学の罠~美と快楽と誘惑~」を読み、科学に対する疑問点を解決しよう!!
「科学の罠~美と快楽と誘惑~」
進化生物学者の長谷川英祐先生は、
ベストセラーともなった
「働かないアリに意義がある」で有名な方です。
最近の科学界では、ノーベル賞受賞など輝かしい
ニュースもあった反面、論文捏造騒動など
科学者のモラルが厳しく問われる事件もありました。
「科学はどんな学問なのか?」
「科学はどこまで解明できるのだろうか?」・・・
一般にはあまり知られていない数々のテーマについて
今回は、この本をご紹介しながら考えていきます。
「科学の罠~美と快楽と誘惑~」 (長谷川英祐著、青志社、2014年)
長谷川英祐先生(以下、著者)は、近年話題作となった
「働かないアリに意義がある」で一躍有名になった
進化生物学者です。
主に、社会性昆虫の研究をしながら
「生物界における集団と個体との関係」などを
探ってこられました。
社会性昆虫の一群でもあるハタラキアリの研究成果から
これまでのダーウィンの「種の起源」についての誤解なども
最先端の生物学の知見からわかりやすく説明されてこられました。
今回ご紹介させて頂くこの本の中でも、あらためて学び直すことが
できる内容となっています。
また、プロローグ(前書き)での著者からの要望によると
特にこれから理系に進み科学者を目指そうとされる若者にこそ、
お読み頂きたい本だそうです。
さて、近年科学界では「輝かしい業績」が発表される一方で、
理研騒動や原発を巡っての「科学者共同体」における倫理的責任問題も
話題になっていることは、皆さんもご存じだと思います。
ところが、マスメディアや学校教育における通俗的な科学情報では
一般人にとっても十二分な知識が得られるとは言い難く、科学分野における
理解も困難になっているようです。
21世紀、ますます「科学と人間との付き合い方」が
厳しく問われてきている中で、
「科学は一体どこまで私たちに恩恵を与えてくれるのか?」
「そもそも科学には何が可能で、何が不可能なのか?」
過剰な期待感でもなく、極端な科学軽視でもない
すんなりした「科学的思考法や知識」を身につける必要性が
高まってきています。
今回は、そんな皆さんの日頃からの科学への疑問点に対して、
わかりやすく解説してくれる本をご紹介しましょう。
きっと、皆さんが今までに常識として抱いていたであろう
科学観が大きく揺らいでいくことを実感されることでしょう。
科学的妥当性と真偽問題は異なる!?
著者は、科学に対しては適切な距離を取ることが賢明な態度だと
様々な事例を紹介しながら語っています。
一般人からすれば、20世紀から現代に至るまでに
あまりにも便利な生活を享受することが可能となったために、
過剰な期待感を持ってしまいがちです。
一方、急激な科学技術の進歩は、私たちの生活環境を良くも悪くも
大きく根底から揺るがせかねない状況になってきました。
そのため、もはや人間の手の届く範囲を超えかねないほど
不安定になり、科学への不信感も高まってきているようです。
著者は、この本の中で意外にも「科学者共同体」でさえ、
科学に対する十二分な教育的配慮や適切な科学的知識・思考法が
了解されていない現況にあると語っています。
科学によって解明出来る範囲は意外に狭いとも語っています。
科学は、「それは何か?」には一切答えてくれないようです。
「いかに?」「なぜ?」ということには、答えてくれる方法を
提供してくれますが、それも最終的には各科学者の解釈に委ねられる
余地もあり、100%の解答は得られないようです。
科学的方法論は、数多く積み重ねられてきましたが、
そもそも実験や観察などによって「客観的、再現可能性、反証可能性」の
あるテーマしか扱えないという限界もあるようです。
これまでの、自然科学の論証手段では「科学的妥当性」までは導けても、
絶対的に正しいということは言えないことも判明してきました。
20世紀以降、確率・統計学の飛躍的進歩から、科学的調査法も
大きく変革されてきたようですが、決定的な解答はなく、
「仮説」として提示されるだけに止まるようです。
「99.999%は、仮説!!」(竹内薫氏)と、いうように
実験・観察で確認された事実でさえ、あらたに説得力のある「仮説」が
発見されれば、修正を余儀なくされます。
つまり、科学は常に書き換え可能だということですね。
暫定的な解答でしかないようです。
著者は、アインシュタインの相対性理論やダーウィンの進化論などの
事例を挙げながらわかりやすく解説されています。
科学的真理と価値判断
まとめますと、「科学には100%の正しさはない」ということです。
これは、案外科学者でさえ盲点となっているようです。
また、科学的に妥当だとされる結果が得られたとしても、
その成果を現実社会で実際に適用するかどうかの価値判断は、
まったく別だということも強調されています。
科学者も人間ですから、実社会ですぐに役に立ち、金回りの良さそうな
研究分野に殺到するようですね。
そのような名誉欲や金銭欲などが、昨今の不正行為を助長しているような
ところもあるそうです。
こうした点を見てくると、私たちも科学に対して「過剰な期待感」や
「科学に対する過小評価」のいずれもバランスを失した見方だということを
理解しなければなりません。
この本を読むと、適切な科学との距離の取り方について、学ぶことができます。
皆さんも、「科学的メディアリテラシー」をこの本で学んでみませんか?
内容は、かなり密度が濃いです。
著者は、あくまで生物学者なので「すべての科学分野」について精通して
おられる訳ではありませんが、科学的視野を磨くには最適な「簡にして的を得た」
珠玉の1冊となっています。
なお、著者の別著として、前述の
「働かないアリに意義がある」
(メディアファクトリー新書、2010年)
※特に、生物における「集団と個体の関係性」に関する考察は
秀逸です。今回ご紹介させて頂いた本とともに読まれると
ダーウィン進化論も「個体の進化」がメインであり
あくまで「種の起源」を探るものだったそうですが、
「種」という言葉だけが、当時の社会進化論イデオロギーと相まって
誤解されていった過程なども正確に学び取れる内容となっています。
世界は、ある個体が欠けても全体でカバーし得る
優れた「可動型生態構造」になっているようですね。
「相互補完性こそ、自然な生物界の仕組み」のようです。
つまり、役に立たない生物などいないということです。
「縮む世界でどう生き延びるか?」
(メディアファクトリー新書、2013年)
をご紹介しておきます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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