増田悦佐さんの「城壁なき都市文明 日本の世紀が始まる」世界基準と世界史の流れで観察すると、日本は格差社会ではない!?

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「城壁なき都市文明 日本の世紀が始まる」

日本社会の閉塞性あるいは格差社会化などの

悲観的な論調に対して、これまでも「通念」を

覆してこられた増田悦佐さん。

その独自の幅広い視点には、面白さがあります。

著者によると、2014年あたりから

「日本の世紀」が来る!?との予想図が描かれているよう

ですが、その「楽観的根拠」とは・・・

そのヒントは、「世界史の流れを読む力にあり!!」

今回は、この本をご紹介します。

「城壁なき都市文明 日本の世紀が始まる」          (増田悦佐著、NTT出版、2014年)

増田悦佐さん(以下、著者)は、アメリカのニューヨーク州立大学の

助教授を経て、外資系証券会社で、主に不動産関連のアナリスト業務に

携わってこられた異色のご経歴のある方です。

現在も、ご専門の不動産調査の才能を活かした

独自の都市問題に対する分析をされています。

これまでにも、様々な角度から、世界史の中における「都市経済問題」など

大変面白い視点で、世に意表をつく問題提起をされています。

世の中の経済観が、否定的なムードになればなるほど、

私たち日本人に希望を感じさせるような反証材料などを

提供されてこられました。

とはいえ、その論証も、ありきたりな「根拠無き楽観論」でもなく、

独自の「世界史の流れを読む力」によって分析考察されています。

管理人が著者のご存在を知ったのは、

①『高度経済成長は復活できる』(文春新書、2004年)

②『大阪経済大復活』(PHP研究所、2007年)

③『格差社会論はウソである』(PHP研究所、2009年)

の3冊との出会いでした。

特に、②は、管理人が大阪人でもあり、

当時は、不動産関連の仕事にも携わっていたために、

興味関心があった話題でもあり、

また、大阪の「キタの玄関」梅田や「ミナミの中継地」阿倍野の

再開発事業が大規模展開中だったこともあります。

著者は、「東京人」ということもあり、その問題提起には

多少、「大阪人」である生活者としての日々の視点からは

遊離した点もあり、違和感を覚えた箇所もありましたが、

大阪市内の交通整備網を始めとした社会インフラ論については、

脱帽させられました。

「なるほど、その論考のテーマは<盲点>やった!!」などと・・・

一方、世界的な経済格差の流れが定着していく中で、

日本社会でも「不安一色ムード」が漂い始めると、

連日メディアでも(すでに長期デフレ不況を煽っていましたが・・・)

「日本経済格差論議」が展開されていました。

こうした「負の傾向性」に一石を投じられたのも著者でした。

確かに、少子高齢化やジニ計数、若者を始めとする雇用難など、

数え上げればきりがないほど、身近に「経済格差」は満ち溢れている

ことも事実ではあります。

しかし、世界史や世界基準、あるいは日本史といった

大きな視点から、現代を分析すると、今ほど「好運な時代もない!!」との

新たな視点も提供してくれているのも著者です。

特に、「長期デフレ傾向」に対する「異論」には考えさせられるものが

ありました。

著者は、総じて現政権が続行中の経済政策には反対のようであり、

いわゆる「新自由主義者」や「新ケインズ派」といった

公式的な「供給側・需要側」とも異なる論を提示されています。

また、「格差社会ウソ論」も通俗的な「格差容認論」とも

異なった視点を提供されています。

著者のこれまでの不動産調査分析の手法と綿密な歴史考察から

得た「社会インフラ論」を中心とする「新経済革新論」であります。

そうした大手メディアの盲点をつく貴重な論考を

世に問うてこられたのが、著者でした。

さて、著者によると、本書刊行の2014年あたりから

世界経済が没落していく過程で、日本が急激に歴史の表舞台に

浮上してくるとの推論を提示されておられますが、

その「楽観的根拠」は、一体どこにあるのでしょうか?

それが、「城壁なき都市文明国家 日本」です。

歴史を見れば、政治と経済は必ずしも連動していないそうです。

本書のもう一つの特徴は、本書が著者のこれまでの集大成であり、

「一定の区切り」となる著書とのことです。

その点は、巻末の<自著解題>という丁寧な詳細解説で示して

おられます

ですから、これまで著者の書物に1冊も触れられたことのない方でも

読み進めやすいように、著者のサービス精神が発揮されている好著でも

あります。

ということで、今後、日本経済の先行きはいかなる新局面へと

突入していくのでしょうか?

世界経済の未来予想図とは??

著者曰く、「エリート層だけに政治経済運用を任せっぱなしにすると

ロクな目に遭うことがない!?」とか・・・

そういう意味も込めて、皆さん各自の分析考察能力を養って頂きたく

この本を取り上げさせて頂きました。

都市自由空間の有効活用こそが、歴史発展を促す!?

ところで、本文に入っていく前の導入として、

これまで著者は、一貫して「都市自由空間への集中投資を通じた成長戦略」を

主張されています。

また、全国交通網の整備発展を通じた社会インフラ強化を強調されてこられた

ようです。

「都市機能と地方機能では、明確な役割分担の違いがある」との視点です。

さらに、エネルギー効率論の観点から「クルマ社会の縮小」と

「鉄道社会の復活」など長期的な視野を入れた

独自の未来経済像も提示されておられます。

そのことは、日本社会だけでなく、アメリカ社会も含めた傾向らしいとの

視点も、本書で展開されておられます。

そこで、本文に入らせて頂きますが、最初に結論を提示しておきます。

それは、「城壁無き都市国家」の経済発展への寄与度であります。

つまり、居住移転などの自由な流通機構がいち早く整備された地域から

経済発展していくということであり、城壁のあるなしで文化環境も

大きく変わってくるということです。

ムダな権力介入をせず、各人の自発的成長に任せることが、

長期的な社会安定にもつながるということです。

そこで、本書では、古今東西の歴史的文化環境を相互比較しながら

「城壁のある都市国家」と「城壁のない都市国家」を対比させていきます。

また、「経済格差と安全格差にも相関性がある」との分析結果を提示して

おられます。

とりわけ、アメリカ社会における富裕層の都市郊外への転出から

創出されていった「ゲイティッド・コミュニティー(閉鎖的地域共同体)」は、

現代の「城塞都市」だとして否定的な観点から論じられています。

この「ゲイティッド・コミュニティー」については、

前にも当ブログでご紹介させて頂きましたが、

その時には、「保安機能」と「住民自治」の視点から解説させて頂きました。

こうした特定の経済階層だけで構成された都市空間は、

案外もろく、また長期的には「文化衰退」をも招き、

各層における排外感情や無関心などを生み出し、社会に不協和音を

もたらすことにもつながるため、悪影響が出るとの視点があります。

もちろん、このような「ゲイティッド・コミュニティー論」にも

長短ありますが、概して歴史的に判断すると悪い結果が出ているようです。

そこで、著者もこのような視点から「城壁あるなし都市国家論」を

展開されるのですが、「城壁あっても出入り自由」な社会であれば、

例外もあるかもしれないとの調査結果も提示されています。

それが、中国文化の全盛期とも評されてきた「宋時代の都市国家」です。

翻って、日本社会では、縄文時代以来、「出入り自由な都市国家」として

繁栄してきた様子を描写されています。

「日本社会の長期安定と経済発展の原動力は、流通機構の早期整備と

城塞無き都市空間にあるようだ」との仮説を提示されています。

また、そのような傾向であったため、日本人同士においても

経済格差がうまく微調整されてきたことが、同時に「保安機能」を

果たしてきたとの見方も提示されています。

著者によると、世間一般の見方に反して、「稀びと信仰」といった

「よそ者歓迎文化」もそのような自由をもたらした要因の一つだと

されています。

意外に、日本人と日本社会は「保守的ではなく寛大な」性格に

あったのかもしれません。

気候変動と戦乱と経済変動という3条件から考察する「経済論」

さて、このように経済発展の共通点を「城塞無き自由都市」に発見してきた

著者でしたが、もう一つの「社会安定」という視点も大切なテーマですので、

ここで取り上げさせて頂きます。

著者の観察するところ、必ずしも「政治覇権国」と「経済覇権国」は

一致しないようです。

むしろ、「城塞ある政治的都市」では、その外部で絶えず

争闘・混乱が生起してくる不安定な社会のため、人びとの相互不信感も

高まり、自由な出入りも不可能です。

そのため、経済が安定することはありません。

産業も、争乱で打ち壊されるために、人口も減少してしまうからです。

この点において、著者は、中世ヨーロッパにおける「都市国家」に対する

イメージ「都市には自由の風が吹く」との諺の意味について、

大多数の日本人は誤解していると指摘されています(本書23頁~)が、

一般的な解説ではそれでも構わないかもしれませんが、

中世ドイツの「ハンザ同盟」など「経済同盟」を介した各都市国家間の

結合という視点にも、もう少し詳細な分析をして頂ければ

なお良かったのではないかと思われます。

この点は、個人的には、若干物足りなかったところです。

なお、このあたりの事情につき、こちらの記事もご一読下されば幸いです。

ところで、日本でも、

「城塞ある自由都市」が存在しなかった訳ではありません。

関西地方なら、堺・博多などの<自治都市>や<寺内町>もあります。

こうした「住民自治」を基盤とした「保安都市」も存在していました。

ただ、著者も指摘されておられるように、諸外国に比較すると

「障壁は低かった!!」ようです。

とはいえ、こうした軽度の「保安都市」が維持出来たのも、

経済が諸外国に比較して安定していたために、

窮余の秘策として、最終的には「カネで解決する」方法が

あったからのように思われます。

このあたりは、現代日本の「軽安保論」とも共通しているようです。

もちろん、安価な外国軍隊など傭兵に依存し過ぎた国は、

古代のカルタゴの事例を示すまでもなく、問題もありますが・・・

ただ、このような世界史的な観点から考察しても、

「過度の個別的自衛策」よりも、「集団的相互防衛策」の方が

リスク分散としても賢明策だと思われます。

いずれにせよ、「政治不安回避策」は「経済安定策」が

最重要となります。

織田信長は、政治軍事的天才でもありましたが、

近代的感覚も持ち合わせた「経済的政治家」でもありました。

余程のことがなければ、まず「根絶やし」は、やらなかったようです。

もっとも、伊勢長島一向一揆や比叡山延暦寺の事例はありますが、

それもあくまで例外で「最後の措置」だったようです。

しかも、近代社会の本格的開幕には、「政教(聖俗)分離」が

必須であります。

そうした背景事情があったことも忘れてはならないでしょう。

念のため、「根絶やし政策など、今も昔も論外!!」であることは

変わりありません。

ここで考察しているのは、「城塞無き都市国家と社会発展の条件」という

テーマです。

そこで、この戦国混乱期(1330年代の南北朝期から

徳川家康の1610年代の元和偃武まで約280年、平安末期の

1180年代からだと約430年間)は、日本では「中世から近世にかけて」

の時代区分に該当しますが、こうした「戦乱の時代」は、

寒冷期と疫病あるいは、天候不順による農作物などの不作も

同時進行していた「経済不安定期」でもあったようです。

もちろん、細部においては「例外」もありますが、

一般的な社会傾向としてはの話です。

そこで、一気に最近の経済論で閉めさせて頂きます。

著者によると、現在は「デフレ期」で、一見すると

マイナス成長の経済不安定期にありますが、むしろ、

か弱いですが、「平和な時代」だからこそ、

チャンスだとされています。

20世紀の戦争の時代は、同時に「軍事インフレ」を

招きましたし、戦前の「デフレ」を一気に「インフレ」に

させようと、人為的な誘導を図ると良くない結果が起こりうると

いうのが、歴史的教訓のようです。

もちろん、いつの時代も「例外」はありますが、

世界的に景気が冷え込む中での、外需依存はきわめて危険なようです。

だからこそ、今は「内政重視と内需拡大が要請」されている訳です。

著者も、これまでの各書物でそうした結論を強調されてこられたようです。

まとめますと、このような世界的な「大変動期」においては、

日本だけが「大丈夫!!」とは断言出来ないということです。

これからも、国内外ともに平和であり、

皆が安心して暮らせる社会を維持していくためにも、

賢明な知恵と決断と実行が必要となります。

本書は、そのための「ヒント」を提示してくれています。

また、一般的な「東京一極集中<批判>論」にも「異論」があるようです。

管理人のような大阪人や東京以外の地方人の方にとっては、

受容しにくいところもありますが、

少なくとも、表面的な「東京一極集中<批判>論」には問題もあるようです。

その意味で、著者も「21世紀の日本」に相応しい「現政権」とは

また違った角度からの「高度経済成長論」を提唱されていますが、

「昭和の<国土の均衡ある発展>から、平成の<不均衡ではなく、

各地域の個性を生かした発展>」を生産的に創造していきたいものです。

そのことを考えると、昭和期において、諸外国に先駆けた全国交通網を

整備し、今も整備中であることは、「高度経済実現」のためには、

<必要条件>だったということです。

ただ、惜しむらくは、未だ完全には<十分条件>には達し得ていないことです。

今後は、「国土強靱化政策」を始め、老朽化した社会インフラ整備も

貫徹させなければなりません。

著者も強調しておられますように、「エリート任せ」だけでは「不十分」との

ことなので、私たち一般国民も賢明な判断を下せるように学習し続ける必要が

あります。

「賢者は歴史に学び、愚者は自らの拙く狭い経験で失敗する!!」であります。

ということで、今回はここまでにさせて頂きます。

皆さんにも、ともに「明日の社会」を創造して頂くためのヒントとして

本書をご一読されることをお薦めさせて頂きます。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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