ジェレミー・リフキン氏の「水素エコノミー~エネルギー・ウェブの時代」未来社会を大激変させる新エネルギー革命とは!?
「水素エコノミー~エネルギー・ウェブの時代~」
アメリカの文明批評家ジェレミー・リフキン氏が、
水素エネルギー革命が未来社会に与える影響力に
ついて、解説されています。
人工知能も2045年問題を抱えるなど喫緊の課題
ですが、エネルギー問題も
それ以上に最重要テーマであります。
なぜなら、すべての人類社会の底流には、
エネルギー問題が不可欠だからです。
今回は、この本をご紹介します。
「水素エコノミー~エネルギー・ウェブの時代~」(ジェレミー・リフキン著、柴田裕之訳、NHK出版、2003年)
ジェレミー・リフキン氏(以下、著者)は、
アメリカの著名な文明批評家であります。
20世紀初頭に活躍したオズワルト・シュペングラーや
アーノルド・トインビーにも匹敵するほどの
21世紀における代表的な西洋文明批評家として
知られています。
科学とテクノロジー問題、地球環境とエネルギー問題を
中心に、現代社会の諸問題点を文明史的観点から批評されています。
本書のテーマは、「新エネルギーの有力候補<水素>と未来(経済)社会に
与える革命的影響力について」です。
私たち人類は、エネルギー問題と無縁に生存し続けることは出来ません。
ことに、熱力学第二法則である「エントロピーの法則」については、
人類の生存にとって不可欠な考えであるにもかかわらず、
現代でも、あまり十分な理解がされていないようです。
熱力学第一法則「エネルギー(質量)保存の法則」については、
それなりに知られていても、第二法則に関しては、
なぜかその存在すら軽視されてきたようにも思われます。
これは、意図的なことなのか??
それは分かりませんが、「現代社会」のうちでも、
政治経済運営にとっては都合の悪い「真実性のきわめて高い法則」だったから
ではないでしょうか?
さて、本書の論旨は明快であります。
①18世紀「産業革命」以来の石油・石炭などの「化石燃料」の限界が
近づいてきており(それも2020~2030年内外!?)、
あらゆる領域で深刻なエネルギー不足が生じてきており、
その稀少なエネルギー争奪戦が世界中で展開されてきたこと。
②現代「化石燃料」の雄<石油>が政情不安定な中東周辺に
偏在していること。
そのことが、地政学的歪みをも招き寄せてきたこと。
③<石油>を始めとする「化石燃料文明」は、人類にとって
きわめて高コストであり、生存環境にとっても相当な負荷をかけてきたこと。
④こうしたことから、従来の「化石燃料エネルギー」からの脱却を必然的に
図らざるを得ないこと。
⑤その「代替的エネルギー」の多様化とともに、今後もっとも人類にとっての
<光明>をもたらすものと期待されているのが、無尽蔵で安価・安全な<水素>
エネルギーであること。
⑥この<水素>エネルギーが、今までの人類文明をも革命的に大激変させる
起爆剤となり得ることとともに、現代情報通信経済社会ともきわめて親和性の
高い思想を含んでいることなど・・・
まとめますと、<水素>エネルギーによる新経済体制『水素エコノミー』への
移行過程が、詳細に解説されているのが本書であります。
ということで、2045年問題を抱える人工知能とともに、早急な解決策を
導入していかなくてはならない「新エネルギー革命と未来社会」について、
皆さんとともに考察していこうと、この本を取り上げさせて頂きました。
「化石燃料のつけ」であるエントロピー増大の法則からしっぺ返しを受ける現代文明と人類史における「最後」の転換地点に生きていることを自覚しましょう!!
著者は、石油会社で働いていた地球物理学者M・キング・ハバート氏が
提示した、いわゆる「石油ピーク論」の根拠として使用されることの多い
「ハバートのベルカーブ仮説」を引用しながら、「化石燃料依存文明」からの
転換を呼びかけています。
著者の分析考察によると、「石油ピーク」は、喫緊の2020~2030年内外と
解説されています。
その代替エネルギー源として、天然ガスなど様々な資源エネルギーの活用が
模索されてきましたが、ほとんどが「稀少資源」であることも判明しています。
その他の純粋な「自然」エネルギーである風力・地力エネルギーなどの
再生可能エネルギー源の活用も、現代経済文明に必要とされる
エネルギーの「大規模」な供給量としては、不安定かつ高コストのため、
二次的な役割しか果たせない段階にあります。
ちなみに、本書では、「原子力エネルギー」については、ほとんどまったくと
言っていいほど触れられていません。
個人的には、賛否両論ともに、詳細に分析考察して頂きたかったのですが・・・
そこが、物足りなく感じられたところです。
ところで、著者は、人類の盲点である「熱力学第二法則=エントロピーの法則」を
主軸に、現代文明の「限界」に厳しく迫っていきます。
人類史は、重エネルギーから軽エネルギーへと進展していくとともに、
社会における文明度も一段と飛躍していったといいます。
また、「人類前史」である太古の重エネルギー時代は、コストが莫大にかかりすぎたことや、
技術的限界点などの理由から、「規模の経済」も抑制されていたために、
「コンパクトシティー」もバランスよく分散されていたといいます。
そのため、基本的には「自給自足経済生活」も維持されていました。
しかし、そのことは同時に、「ムラ社会(族長)中心のピラミッド型階層」でも
ありました。
人類史は、このピラミッド型階層構造社会から、未だに完全に脱却し終えていません。
テクノロジーの飛躍的な進展が、「規模の経済」を極度に追求することにつながり、
垂直型社会から水平型社会へと共進化してきたとはいえ、「資本力(経済力)」による
格差も拡大していく一方通行の道のりが最近まで続いてきました。
その背景には、資源エネルギーを始めとする
ありとあらゆる事物(人間も含む)の「囲い込み」がありました。
「格差社会問題」は、「自然数学的な発生」という要因もあるそうで、
完全なる除去までは、相当な困難を伴うものとも指摘されてきました。
それが、近年の技術面における「共有経済革命」とともに、ようやく塗り替えようと
されています。
「人類の未来にとっては、一縷の希望」でもあるようです。
また、20世紀の「格差社会是正論」の一部である社会(共産)主義理論の「限界」も
経験してきた今日、長らく西洋文明にとっては「眠れる獅子」でもあった
「平等・公平論」を主要な御旗として掲げる宗教界からの挑戦も受けている最中に
あります。
それが、「イスラム革命論」であります。
本書でも、この「現代イスラム論」について、石油エネルギー論と不平等型格差経済からの
脱却を図るための視点として、詳細に解説されています。
その意味で、本書は、良質な「現代イスラム論」としても学ぶことが出来ます。
こうした「現代西洋文明への挑戦論」としての視点はともかくとして、
「化石燃料依存型現代文明」が、本当の「終末期」に達しつつあることは
間違いないところです。
そこで、著者が目をつけたのが、<水素>エネルギーでした。
この<水素>エネルギーは、自然界に無尽蔵に存在するとされ、
生存環境に対しても負荷が少なく、安価・安全なエネルギー供給力も
可能にしてくれるといいます。
とはいえ、この<水素>エネルギーも、そのままで使用できるものでは
ないようです。
<水素>エネルギーの抽出法も、幾通りかあるようですが、その抽出過程では、
他の「代替エネルギー源」を動力として活用せざるを得ないからです。
そのため、現状では、まだまだ完全な「一般向けエネルギー」にまでは
達していないようです。
ただ、この<水素>エネルギー抽出法が、改善されていくにつれて、
ある一定の「技術的特異点」を乗り越えることさえ叶えば、
「貯蔵」エネルギーになり、いつでも・どこでも濃縮された形で使用可能に
なるだろうとのことです。
「電気」だと「貯蔵」が絶望的に困難だとされる中で、この<水素>エネルギーは、
再生可能資源(太陽エネルギーや風力などの自然エネルギー源)から、ムダな過程なく
そのまま「抽出可能」となるため、こうした難問とされる「電気貯蔵」も克服されるなど
大きな利点もあるようです。
現代までのところ、皆さんも小中学校の理科の実験でも学ばれたような
「電気分解法」の大規模装置版をイメージして頂くとよいかと思われますが、
こうした<水素>エネルギー抽出装置が、実用化されていくと、
私たちの現代文明社会も大きく変化していくだろうとの未来予想図が
本書では描写されています。
将来的には、「自動(運転)車そのものが、自家発電機にもなり得る時代が
到来する!!」とのことです。
こうした「化石燃料依存型現代文明」からの速やかな移行が叶わなければ、
人工知能の分野で囁かれる「2045年問題」とも相まって、早晩大変な「厄災」が
訪れることになるかもしれません。
著者も強調されていますが、そうした多角的な視点も加味しながら
近未来を予測していると、「今が、まさしく人類史の正念場!!」だとも言えるでしょう。
「水素エコノミー」が、人類の階層差別的思考法を変える!? ~貧しい人々にもパワーを!!~
ところで、著者によると、
「水素エコノミーは、水平社会をより一層と促進させる!!」とのことです。
こうしたあらたな「水平的共有型経済」が、人類史の「格差問題」を
いかに生産的に効率よく解決してくれるかは、未知数でありますが、
間違いなく、現代人の思考法(頭の使い方)や、発想(感性・霊性)に
より良き知恵をもたらしてくれることでしょう。
著者は、この来るべき<水素>エコノミー革命を
1990年代中頃から現代まで進化し続けるインターネット情報通信革命と
類比的に考察されています。
「ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)」の思考法であります。
とはいえ、この「ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)」の理念も
実践的思想家が当初想定していた事態とは、大きく修正されていったことも
忘れてはならないようです。
それは、「知的財産分野」などでも顕著に現れ出ています。
つまり、「私的所有思想と公的共有思想とのせめぎ合い」との
折り合いにどこで・どのように決着をつけるべきかは、
今もって、深刻な「論争」を巻き起こしているからです。
要するに、やはり「現代」人の欲望形態のうち、「カネへの執着」といった
誘惑からは容易に逃れがたい精神的次元にあるという「盲点」であります。
その精神的次元を乗り越えない限りは、<水素>エコノミーをきっかけとする
「次世代型資本主義」への移行も先が思いやられるものがあります。
まとめますと、人類は、「物質的な解決よりも精神的な納得を優先」させなければ、
いついかなる時代も、なかなか前進することが難しいということです。
著者も、次世代型資本主義??経済における「資源エネルギー管理法」の一試案として
協同組合などによる「非営利型共同管理法」や、半官半民的な「中道型??共同管理法」など
幾つか提示されています。
いずれにせよ、人類の「高次意識の問題」であることには相違ありません。
そして、最後に著者が最大限に本書で強調されてきた主題が、
「エントロピー増大則と人類の知恵との調和問題」であります。
「化石燃料依存型現代経済文明」から「水素エネルギー主導型近未来経済文明」へと
進化発展していくにせよ、人類は相変わらず、この「エントロピー増大則」と
完全に切り離した文明生活を享受することは不可能だからです。
やはり、最後は、「自然からの審判」に人類はどこまで謙虚でいられるかとの
「精神的次元問題」から逃れきることは出来ないのです。
本書では、「水素エコノミー論」が主題でしたが、「エントロピー増大則」の
問題意識を共有していかないことには、近未来における「水素エコノミー」の
実現も「夢のまた夢!!」だということは、著者ならずとも警鐘乱打して
おかなくてはなりません。
著者は、この姿勢から「地政学に基づく政治から生物圏に基づく政治へ」との
問題提起でもって「論考」を終えられています。
「地球生物圏は、<閉じた系>にある太陽と水の惑星」(本書65頁)で
あるが故に、「エントロピー増大則」を無視して人類の「生態系」を
構築することは、およそ不可能だからです。
しかも、「地球は、人類だけの独占的財産ではありません!!」
ということで、人類が今後とも生き残りを真剣に考えるのであれば、
「エントロピー増大則と地球生態系の決まり事」には
忠実でなければならないようです。
そのことを、著者も「ガイア仮説」で有名なジェイムズ・ラブロック博士の
提言とともに強調されておられます。
このように本書は、近未来の人類生存を真剣に考えていくための
「賢者の書」であります。
新自由主義的な「発送電分離型電力自由化」が静かに発進されていく中での、
この「水素エコノミー」実現に伴う「民主的エネルギー論」をお読み頂くことで、
現時点から将来へ向けての方向性に関する真偽判定を各自で下して頂きたく、
本書とともに解読されることをお薦めさせて頂きます。
なお、本文末の「地球は<閉じた系>論」につきましては、
「地球システムの崩壊」
(松井孝典著、新潮選書、2007年)とご併読されることに
より、理解も促進されることと思われます。
また、著者の別著として、
「エントロピーの法則~地球の環境破壊を救う英知~」
(竹内均訳、祥伝社、1990年)
「脱牛肉文明への挑戦~繁栄と健康の神話を撃つ~」
(北濃秋子訳、ダイヤモンド社、1993年)
「大失業時代」
(松浦雅之訳、TBSブリタニカ、1996年)
「限界費用ゼロ社会~<モノのインターネット>と
共有型経済の台頭~」
(柴田裕之訳、NHK出版、2015年)
をご紹介しておきます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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