志村史夫先生の「環境問題の基本のキホン~物質とエネルギー」 <地球にやさしい>を再考させるエントロピー!?
「環境問題の基本のキホン~物質とエネルギー」
志村史夫先生が、「物質とエネルギー」の基礎知識を
「環境問題」とともに学べる解説書を上梓されています。
人類は、今後とも「持続可能な生活」を維持していくための
代替エネルギーを只今模索中です。
中でも、「再生可能エネルギー」は、「地球にやさしい」と。
でも、「地球にやさしい」って本当なの!?
少し再考してみましょう。
今回は、この本をご紹介します。
「環境問題の基本のキホン~物質とエネルギー~」 (志村史夫著、ちくまプリマー新書、2009年)
志村史夫先生(以下、著者)は、
長年、日米両国にて半導体結晶の研究に
勤しんでこられた研究者です。
研究の傍ら、理系・文系の分野にとらわれずに
一般向けの啓蒙書を数多く手がけてこられました。
その「わかりやすい文体」には定評があります。
そんな著者が、このたびは「環境問題」について、
「物質とエネルギー」に関する基礎知識とともに学べる
初心者向け入門書を上梓されています。
昨今の「環境問題」は、純粋な「科学研究」には
ほど遠く完全に「政治経済問題化」しています。
そのため、「科学」そのものが、真偽不明で怪しげな
「擬似科学」のように粉飾されてしまっています。
中でも、「地球にやさしい」という標語や
自然エネルギーを活用した「再生可能エネルギー」という
言葉だけが、その具体的な内容も十分に吟味理解されることなく、
世間に拡散されています。
とはいえ、「科学的に正しい」知見に基づけば、
「純粋な」自然や地球環境にまったく負荷のかからない
コストゼロの「地球にやさしい再生可能エネルギー」など、
現時点ではあり得ないことも事実であります。
しかし、そのような「真実」がマスメディアなどで、
真剣に考察されることはないようです。
著者は、そのような現状を憂うべき事態とみなされており、
正確な科学的基礎知識とともに「環境問題」を解決していかないと、
早晩、「持続可能な経済生活」すら困難な局面を迎えるかもしれないと
警告されています。
だからこそ、人間にとって心地よく響く言葉に惑わされることなく、
冷静に地球生態系に配慮した「エネルギー環境論」が、
展開されなくてはなりません。
ということで、何度でも再考しておくべき価値のあるテーマが、
「環境問題の基本のキホン」ですので、この本を取り上げさせて頂きました。
「環境問題」では、絶対無視してはいけない「エントロピー則」
本書は、「ちくまプリマー新書」シリーズの1冊でもあり、
基本的には、意欲的な中学生以上の読者が想定されています。
とはいえ、初歩的な「原子論(物質編)」や
通称「エントロピーの法則」と言われている
「熱力学第二法則(エネルギー編)」は、高校生の基礎化学の知識が
必須となるため、中学生の方にとっては正直若干難しいテーマかもしれません。
そんな場合は、こうした難しい分野は「飛ばし読み」でも構いませんので、
先にどんどん読み進めてみて下さい。
今は、「学習不足」でも、頭の片隅に眠らせておくだけでも、
いつかきっと腹の底から「わかる」時期が必ず到来しますから。
そこは、安心して下さい。
「優秀」な人間や「天才」ですら、幼少期には、読み飛ばしながら
興味関心あるテーマを探究していったのですから、皆さんなら大丈夫ですよ。
本書の内容を掲げておきます。
①「序論」
②「物質の構造」
③「さまざまなエネルギー」
④「力学的エネルギー」
⑤「熱エネルギー」
⑥「電気エネルギー」
⑦「化学エネルギー」
⑧「核エネルギー」
⑨「太陽エネルギー」
⑩「未来志向エネルギー」
という10テーマから「環境問題の基本のキホン」が
わかるように配慮されています。
それぞれの基礎知識については、本書をお読み頂くとして、
ここで本書を読み進められる際の最重要ポイントがあります。
それは、常に「虚心坦懐」に「科学の心」をもって、
科学的基礎知識を学び取って頂くことをお願いしたいのです。
賢明な読者の皆さんなら、本書を読み進められる過程で
著者が、あくまで「現時点」では「原子力エネルギー」に
最大の期待をされておられることに気付かされることでしょう。
だからといって、「原子力産業界」の立場だけに偏った
問題提起をなされているわけではないことも知るでしょう。
このように、将来「良識ある」科学者になろうとされる
若い皆さんにとっては、
それぞれの「エネルギー事情」について、
長所と短所をバランスよく知ったうえで、
現実的な技術的到達度を踏まえた生産的提言が出来るようになることが
これからの社会では、等しく求められます。
とはいえ、「大人の事情」とは誠に恐ろしいものです。
「大人」・・・
それも、「社会的地位の高い大人」だからといって、
常に良識ある判断を下せるわけではありません。
20世紀の歴史や直近の政治経済的判断を語るまでもなく、
常に「科学」は世俗の素人的判断で歪められてきました。
その一つが、今回、本書でも取り上げられている「原子力エネルギー政策」です。
現在のところ、これまでの「原子力エネルギー政策」の問題点を慎重に見直しながら、
徐々に「再稼働」の方向へと回復されようとしています。
一方で、自然エネルギー(太陽光や風力など)を活用した「再生可能エネルギー」が
代替エネルギー源として注目されています。
しかし、ここで注意して頂きたいことは、今後どのような方向で
エネルギー源を模索していくにせよ、ある「自然の摂理=法則」が
常に付きまとうということです。
それが、「熱力学第二法則(エントロピーの法則)」です。
この「エントロピーの法則」もこれまで何度もご紹介してきましたが、
いわゆる「秩序ある状態から無秩序な離散分散状態」へと「拡散」していく
「一方通行のエネルギー変化作用」のことを意味します。
つまり、地球のような「閉じた生態系」において、
外部からあらたなエネルギー源を取り入れることの難しい環境下では、
エネルギーを一度使用してしまえば、同じような姿では、
容易に復元できないということです。
将来的には、「天才肌」の科学者や技術者によって、
この「エントロピーの法則」を回避する手段も開発され、
この難問が解決されることになるのかもしれませんが、
どうもかなり難しいようですね。
というわけで、現状では(将来的にもこのような根本的な最終解決が
なされない限りでは)、この「エントロピーの法則」からは
誰も逃れることは不可能ということです。
つまり、「環境問題」のみに限らず、人類が生存していくためには、
絶対にこの「エントロピーの法則」を無視してはいけないということです。
「エントロピーの法則」については、
人類が今後ともこの地球上で生きていく限り
避けては通れない最重要問題ですので、
今後とも折に触れ、様々な角度から、
追跡調査していく予定でいますが、差し当たっては、
本書の他に、前にもご紹介させて頂いた記事の
記事末参考文献などが比較的わかりやすい解説書だと思いますので、
ご興味関心ある方には、お薦めしておきます。
なお、著者とも問題意識を共有すると思われる
「現実的な」環境問題を考察するにあたっては、
前にもご紹介させて頂いた記事も参考になるかと思いますので、
ご一読のうえで、一度手に取ってお読み頂ければ幸いであります。
「再生可能エネルギー」が、<地球にやさしい>って本当なの!?
さて、本書でも強調されているように、
こうした「エネルギー環境問題」を考えていくうえで、
重要な論点があります。
それは、この世には「100%安全なものなどない!!」ということです。
いわゆる「ゼロリスク幻想」の問題ですね。
これまで見てきましたように、「原子力エネルギー」については
触れられる機会も多かった論点ですが、
これが「地球にやさしい」とされる??「再生可能エネルギー」になると
いとも簡単に忘れ去られてしまうようです。
本書でも強調されていますが、「太陽光エネルギー」それ自体は、
確かに「太陽」が存在する限り、
「無尽蔵??」に湧き出てくる豊富なエネルギー源として有望視されていますが、
その「具体的稼働装置」を動かすエネルギー源としては、当てはまりません。
つまり、「光エネルギー」を「電気エネルギー」に転換させるための
「動力源」として不可欠なエネルギー源に関しては「無尽蔵」ではなく、
代替エネルギーで支えなくてはならないという難点があるということです。
現状では、あまりにも莫大なコストがかかりますし、
その太陽光パネルが、様々な障害を引き起こすであろう可能性も
考慮されなくてはなりません。
しかし、残念なことに、様々な「大人の事情」が複雑に絡み合う中で、
そうした重要な視点が、マスメディアなどで取り上げられることも
少ないようです。
取り上げられたところで、こうした「太陽光エネルギー産業」に
従事される業界の方々が、その「盲点」を研究改善されることで、
商売上も長期的な「信用」が得られるとは思うのですが・・・
著者も強調されるように、「太陽光エネルギー産業」が
今後とも伸び続けることだけは、ほぼ間違いないのですから。
ここで、きちんとした安全保障型産業投資をしていかないと、
早晩、「原子力エネルギー産業」で起こった事態が、
斯界においても、再び起こりえないとは断言出来ないわけですから、
是非とも、積極的な予防措置を今からでも準備して頂きたく、
著者の願いとともに提言させて頂きます。
こうした「新規代替エネルギー」の中でも、
「自然(再生可能)エネルギー」と聞いただけで、
「地球にやさしい」と想像してしまいがちですが、
地球にそれ相応の負荷がかかっている現実は、
もっと知られてもよいでしょう。
私たちは、前向きに「未来志向」で進むとしても、
「思考停止」だけは避けなくてはなりません。
現役世代だけではなく、間違いなく「次世代」へ
次の時代に向けて最善の形でバトンタッチしていくことが、
「持続可能な・・・」の定義なのですから、
そのルール違反は許されません。
ところで、本書では「バイオマス燃料」以上までは
「生体エネルギー」について、
触れられていませんでしたが、
今もっとも最先端の安価で安全なエネルギー源として
注目されている分野があります。
それは、「微生物(菌類・藻類など含む)」から譲って頂く
「生体エネルギー」であります。
この「生体エネルギー」は、「エントロピーの法則」にも抵抗する
まさに「再生可能」な「自己増殖機能」を活用するものと
されているだけに、それだけ期待度も高いようです。
この「微生物」を活用した「生体エネルギー」についても、
近日中にご紹介させて頂く予定でいますので、
今しばらく楽しみにしてお待ち頂ければ幸いであります。
(追記:ポール・G・フォーコウスキー氏の『微生物が地球をつくった』を
ご参照下さいませ。)
ということで、本書は、今考えられる限りでの「エネルギー源」の現状と
それぞれの長所、短所をバランスよく学べる好著でありますので、
是非皆さんにもご一読されることをお薦めさせて頂きます。
最後に、現時点では、「100%クリーンで安全な科学技術はない!!」のだ
ということを、再度強調しながら筆を擱かせて頂きます。
なお、本書では、「元素論」から「原子の構造とエネルギー」に関する
基礎知識もわかりやすく触れられていますが、「力の働き」については
まだまだ「謎」も多いようです。
奇しくも、本日の新聞に、理研が発見したとされる「日本初」の元素
「113番元素」のニュースが飛び込んできましたが、
このテーマも「原子論」にあらたな道を開くものと期待されているだけに、
将来の「科学者志望者」の若い皆さんには、
是非興味関心をもって学んで頂きたいと思います。
このテーマも、管理人も勉強しながら追々ご紹介していく予定でいますので、
乞うご期待でございます。
少しでも若い皆さんのお役に立てるのであれば、
管理人も勉強のやり甲斐があるというもの。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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