アーサー・I・ミラー氏の「137~物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯」勇気ある学者たちの物語!!
「137~物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯~」
アーサー・I・ミラー氏が、20世紀を代表する
二人の勇気ある学者の物語を描いています。
「物理学と心理学の融合」
21世紀の学問のあり方を先取りしたかのような
学際交流がありました。
物理学者パウリと心理学者ユングは、常識に拘泥しない
優れた学者でした。
バラバラになり混乱してしまった世界を再統合しようと
協力します。
今回は、この本をご紹介します。
「137~物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯~」(アーサー・I・ミラー著、阪本芳久訳、草思社、2010年)
アーサー・I・ミラー氏(以下、著者)は、イギリスの
ロンドン・ユニバーシティ・カレッジの科学史・科学哲学教授です。
日本でも数多くの科学分野の啓蒙書が邦訳されています。
今回、著者は20世紀を大きく変えた勇気と愛情ある
二人の学者の物語にチャレンジされています。
物理学者のパウリと心理学者のユングです。
この二人の学者は、学問分野は異なっていますが、
それぞれの流儀で、「この世界の深層構造」を探っていきます。
「20世紀は、物理学の時代」でもありました。
19世紀末期から20世紀初頭にかけて、それまでの近代科学を
支えていた世界観までもが、崩壊の危機を迎えることになりました。
その原因の一つに「量子革命」があります。
「量子物理学」の進展に伴い、世界の微細構造が少しずつ解明されて
いく過程で、ある数字が出現してきました。
それが、今回ご紹介させて頂くパウリのミュンヘン大学時代の師匠である
アーノルト・ゾンマーフェルトが発見した「微細構造定数137」です。
物理学には様々な「物理定数」が存在しますが、これもその一つです。
この「微細構造定数」は、「宇宙を根本的に成立させている数字」と
されています。
パウリは、師匠に従いながら、さらなる「数式の微調整処理」を
任されていくのですが、徐々に精神に変調を来すことになります。
その精神治療の際に出会ったのが、心理学者ユングでした。
ユングは、精神分析の大家フロイトとも袂を分かった
ユニークな精神医学者でした。
幼少時からオカルトに興味を持っていました。
そうした関心が高じて、「深層心理の世界」を探究していく
きっかけになったようです。
そして、ユングが見つけ出した「元型」や「集合的無意識」という考えを
詳細に検討していく過程で、彼もまた数字に出会います。
「3」と「4」
世界の構造をそれぞれの学問の立場で検討していく中で、彼らは
共通のテーマを共同研究していきます。
この共同研究は、双方にとって「茨の道」でもありました。
お互いの学問の領域を越境していくことで、それぞれの学問分野の
学者から非難や嘲笑を受けることになったからです。
それでも、彼らは、人類の未来における調和を信じながら「勇気と愛」
を持って、困難な道を果敢に挑戦していきました。
そこには、個別社会の「利害関係」とは無縁な「神秘を探究する純粋さ」
だけがありました。
現代社会では、様々な利害関係が錯綜しており
落ち着いて「世界の神秘」に触れる機会も少なくなっています。
そのような現状では、良心的な研究者も「孤立無援」を
強いられていることでしょう。
一般の方にとっても、仕事を含め「孤立・孤独」な環境の中で
必死に生き抜こうとされていることでしょう。
しかし、そのような厳しい状況だからこそ、未来のために奮闘して
頂きたく思い、応援メッセージも兼ねてこの本を取り上げさせて頂きました。
世界の神秘の謎に迫るパウリとユング
この本を読むことで、「物理学と心理学の接点」を学びながら
物理学者パウリと心理学者ユングの生涯を詳細に知ることが
出来ます。
彼らに共通する問題意識は、20世紀初頭における学問の現状が
続く限り、いつまでも世界に調和が訪れることはないだろうと
いうことでした。
17世紀以来続いてきた「近代科学」や「近代哲学」の枠組みを
維持し続ける限り、世界はますます不自然になりバラバラになっていく・・・
そうした惰性的な時代の流れに勇気を持って立ち向かったのが、
パウリとユングでした。
「物理学者は、精神を疎かにしている!!」
「心理学者(哲学者)は、物理を疎かにしている!!」
「こうした学問の偏向では、世界を完全に記述することは出来ない!!」
17世紀頃から本格的に世界は分断されていきました。
デカルトに代表されるような「心身(主客)二元論」は、
世界を簡潔に分析しながら、近代科学の起爆剤ともなっていきました。
ところが、その急激な成長が、かえって世界に「不協和音」をもたらす
ことになりました。
現実的にも、世界に混乱と争乱の種をまき散らす要因ともなっていました。
こうした厳しい現状でさえ、ほとんどの学者はそれぞれの利害関係のためか
「良心的研究」を放棄していく姿勢に傾いていったようです。
そうした時代状況の下で、現代を形成している「世界観」を
再度検討し直していこうと、二人は別々の角度から取り組んでいきました。
パウリは、ボーアの原子モデルの誤りを証明していく過程で、冒頭の
「微細構造定数137」にも注目します。
「世界に存在するものすべてを束ねている根源的な数の一つ」らしい。
パウリは、ケプラーの幾何学的宇宙モデルに早くから魅力を感じていた
ようですが、その「宇宙観構造」を成立させている数字が
「3」か「4」かでたびたび混乱することがありました。
「3(発展星・創造・破壊・混乱)」を支持するケプラーに
論争を挑んだフラッドに対して、より共感していったようです。
フラッドのイメージする「4」の方が、
「世界はより安定的で調和しているように見える!!」
やがて、パウリがユングの「精神分析」を受ける過程でも
マンダラ理解などを通じて共有していくことになります。
錬金術と数秘術こそ、世界の秘密を解く鍵!?
17世紀の近代科学の黎明期には、
まだ「科学と宗教が混在」していたようです。
あのニュートンも錬金術に凝っていたことは、
よく知られています。
そうした中で、近代科学の端緒が開拓されていきました。
また、古代から数秘術も世界から叡智を引き出す鍵として
活用されてきました。
この本を読むと、あらためて「科学と神秘の境界は近い」こと
にも気付かされます。
「科学と神秘主義は分離することは出来ない!!」
パウリも「世界の構造」を物理学的に解析していく中で、
表面的な理解だけでは飽き足らないものを感じていました。
「もっと、無意識の領域をも含めて合理的な説明は出来ないものだろうか?」
ユングの方でも、「心理学にもっと合理的な科学的手法を導入することは
出来ないものだろうか?」というように・・・
お互いに共通の「問題意識」が重ね合わさったため、共同研究をしています。
「物理学と心理学の融合」を目指して協力していきます。
この本は、「数秘術」に興味関心ある方はもとより、「文理融合の学際領域」
を研究されている方の参考にもなるかと思われます。
日本では、21世紀に至るもなかなか「文理融合研究」に苦手意識や
学閥意識などが絡むためか、消極的な研究環境かと思われます。
パウリとユングが協力していた20世紀初頭の日本では、
物理学者と心理学者(哲学者)の間では、スキャンダルだけが先行して
まともな研究に発展することもなかったといいます。
この本を読み進めていると、「学問の自由とは何か?」
「学問と倫理の関係」なども考えさせられます。
ちなみに、「微細構造定数137」は
合計数が「2(知性星・調和とバランス・思慮深さ)」を
表し、「4」は「基礎星・安全・安定」を表しているそうです。
皆さんも、この本には学問的な知識がないと難しいところも
あるかと思いますが、パウリとユングを取り巻く様々な人間模様の
マンダラともいえますので、楽しんで読み進めることが出来るでしょう。
「量子物理学の変遷史」を学び直したい方にもお薦めです。
パウリの「排他律原理」とボーアの「相補性原理」と言葉の表面だけを
見れば対立しているように見えますが、ここにも「調和」があるようです。
量子物理学が創始されてから、およそ100年経ちますが、
「世界観の転換」はまだまだ厳しいようですね。
「どうすれば、地上に美と調和が訪れるのでしょうか??」
管理人も日々、祈りながら生きていますが、
皆さんもこの本をご一読されながら考えて頂ければ幸いであります。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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